15人のタイ人が研修、実習生として、サロマ湖のほとりの小さな町で、ホタテの加工をしながら日々生活を送っている。
そこを訪れる前には、北海道のこんな場所にまさかタイ人が住んでいるなんて思ってもみなかった。それもひとり、ふたりではなく15人も!さて、いったいどんな暮らしぶりなのかと、興味をそそられ、さっそくお邪魔しに車をサロマへと走らせた。
「サワディーカ。」
家の前に一列に並んで笑顔とともに挨拶してくれた。ここは、サロマ湖にある小さな漁港のすぐそばにある一軒家。この家に9人のタイ人がすぐそばにあるホタテの加工場に通いながら住んでいる。足元は、なぜか長靴だ。足を指差しながら理由を尋ねると、これから種を買いに行くところだというのである。 種? 仕事はホタテの加工では? そう聞くと顔を少し赤らめながら、各々自分たちの服をつまんで説明してくれた。「今、こういう格好をしているのは、お店に、種を買いに行き、自分達の畑を耕す準備をするから。大根や葉ものの野菜などをつくり、収穫して、それを使い料理をつくるの。日本は、何でも値段が高いから。」どうりで、みんな、ジャージ姿なわけだ。
それではまたあとで、と言い漁港に向かった。歩いてすぐ、1分もかからない所にその漁港はあった。すぐ裏と言ってもいいほどの距離である。タイ人が働いている加工場はそこから100メートルくらいあるだろうか。家から仕事場への距離としては申し分ないほど近い。漁港には船が何隻か停泊しており、防波堤には同じようなブルーの合羽のようなものを着た何人かが釣り糸をたれていた。「何が釣れるんですか?」とたずねると、ブルーの人たちがみんなこちらを振り向いた。
振り向いたその顔は何か違う国の言葉を発していた。よーく聞いてみるとそれはタイ語であった。
もうひとつの家に6人のタイ人が住んでいると聞いていたその人たちであった。
バケツにはすでに魚がたくさん入っている。この時すでに8時をまわっていたが、聞くとこの日はちょうど休日で朝6時くらいから釣りをしていたそうだ。休みは決まって朝早くから食料調達を兼ねての釣りがいつものことらしい。着ているブルーの合羽も釣竿もみんなサロマの漁協の人たちから借りたり、譲りうけたものらしい。それまでは、何もないので自分たちで釣り道具をこしらえ!魚をとっていたそうだ。たとえば、釣竿は木の棒で、さかなを捕獲する網も無いのでいらなくなったテニスラケットに、これまた捨てられていた網戸のあみの部分をはって魚をキャッチできるようにしたり、木の蔓を編んでかごをつくり、そのかごを川にしかけて魚をとらえるといったぐあいだ。何もないところからはすばらしい想像力とたくましさが生まれるものだと感心した。でもきっと、当のタイ人からしてみるとたいしたことではないのかもしれなかった。ただ、魚は買うと高いし、ここには買わなくとも自分で釣ればたくさんの魚が手に入る。さきほど会った9人のタイ人も自分たちで野菜をつくっている。買うことは簡単だけど高い、働いたお金がすぐに少なくなる。私たち日本人が同じ状況だったら、ここのタイ人のようにしただろうか?日本人は恵まれすぎているのではないか。だけど、本当に恵まれているといえるだろうか?物価も何もかも高い異国の地で言葉もわからず、ただただ、海や川を泳いでいる釣り竿や網があれば簡単につかまえられそうな魚を目の前にしても何もせずに、スーパーで一番安い食料に手を伸ばしていないだろうか?それが自国では決して安くなく、むしろ高いという値段でも。ということを思いながら、「ねえねえ、その魚はどうやって、調理するの?タイ風に?」と魚の行方が気になってきた。もう魚はバケツに入らないほどになっている。
「家に帰ってこれから料理するんだよ。から揚げにしたりね。」
「おいしそう!あのお、お宅にお邪魔してもよろしいですか?」
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